大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和45年(行ウ)11号 判決

京都市上京区河原町通今出川上る青竜町二二六番地

原告

株式会社 三和書房

右代表者清算人

田中健次

右訴訟代理人弁護士

芦田禮一

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被告

上京税務署長

橋本房利

右指定代理人

上原健嗣

小林修爾

橋本敦

信田尚志

奥山茂樹

杉山幸雄

長田竜三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和四二年一二月二〇日付でなした別表一記載の源泉徴収に係る所得税を合計金二六九万六三一〇円とする旨の納税告知処分(昭和四四年六月三日付異議決定による一部取消後の金額)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は原告に対し昭和四二年一二月二〇日付で原告の昭和四二年一月から同年一〇月までの給与並びに昭和三八年一月から昭和四二年七月までの原稿料の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」ともいう。)を金二七〇万一八六四円とする旨の納税の告知処分をなし、右納税告知書はその頃原告に送達された。

2  原告は右処分に対し異議を申立てたところ、被告は昭和四四年六月三日付で原処分の一部を取消し、源泉所得税を金二六九万六三一〇円とする旨の異議決定をなしたが、原告はさらに昭和四四年七月四日審査請求をなしたところ、昭和四五年四月一三日付で棄却の裁決がなされ、同月一八日その旨の通知を受領した(異議決定による一部取消後の納税告知処分を以下「本件処分」という。)

3  しかしながら、本件処分の対象となる事業年度(以下「本件係争年度」という。)における出版事業は三和企業組合(以下「訴外組合」という。)が主体となつて行なつており、右組合が本件納税告知に係る所得についての源泉徴収義務者であり、原告は右所得の源泉徴収義務者ではないから、本件処分は違法である。

二  請求原因に対する認否

請求原因1・2は認めるが、同3は否認する。

なお、被告は、原告の昭和四一年度の法人税調査において、原告の田中健次に対する貸付金と認定した金四六万二八六五円の利息相当額金四万六二八六円を同人に対する賞与と認定し、右認定賞与に対する源泉所得税金五五五四円を含めて原告に対する納税告知処分を行なつたが、原告の異議申立てに伴なう被告の調査により被告が右貸付金と認定したことに誤りがあることが判明したため原処分の一部を取消したものである。

三  被告の主張

1  原告の地位

(一) 原告は図書・教科書の出版及びその附帯業務を営業目的とする株式会社(代表取締役田中健次)で、昭和二四年八月一二日に設立され、昭和四二年一一月二六日に解散したが、登記簿上の本店は肩書地であるが、実際は京都市上京区今出川通烏丸西入今出川町三二六番地において本店業務を行ない、東京都千代田区神田駿河台三丁目三番地に東京支店(責任者田中勤)を設置していた。

(二) 原告の事業内容は主として大学の教科書の出版及び販売にあり、その過程は、主として大学の教授より原稿を受け、右原稿を外注先に委託して印刷・製本したうえ、各大学の生活協同組合の売店ないし各図書販売店等へ販売するものである。

2  本件処分の適法性

(一) 旧所得税法(昭和二二年三月三一日法律第二七号、以下「旧法」という。)三八条、四二条、所得税法(昭和四〇年三月三一日法律第三三号、以下「法」という。)一八三条、二〇四条によれば、給与及び原稿料の支払者は支払の際にその給与及び原稿料について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月一〇日(その日が一般の休日に当たるときはその休日の翌日)までに右源泉徴収による所得税を国に納付すべきものとされている。

(二) 原告は、昭和三八年一月から昭和四二年一〇月までの期間において、別表一にみるように、原稿の報酬(以下「原稿料」という。)並びに給与の支払をしており、その源泉所得税額は、給与につき金八万九一〇〇円、原稿料につき金二六二万四三七六円の合計金二七一万三四七六円であるところ、法定納期限までにその納付がないため、被告は、国税通則法(以下「通則法」という。)三六条に基づき右源泉所得税額の範囲内で本件処分をなしたものであり、右処分は適法である。

3  源泉所得税額の算出根拠

(一) 原稿料に係る源泉所得税について

(1) 法人の事業活動の内容を把握する方法としては、通常当該法人備付の総勘定元帳等の組織的な帳簿類の検討によるが、被告の税務調査に際し、被告の要求にもかかわらず、原告からは右総勘定元帳等の組織的な帳簿類の提出はほとんどなかつた。

(2) 被告は原告の事業活動の内容を把握することが困難なため、原稿料の支払につき、本店分については原告の従業員鵜飼克三の供述により、東京支店分については印税計算書及び図書別の印税支払明細書に記載してある支払金額により、それぞれ算出したもので、その支払先及び各月別の明細は別表二のとおりである。

(3) 源泉所得税は、原稿料の支払の時に特別の手続を要することなく納付税額が確定し(通則法一五条)、納税告知処分は右確定税額が期限までに納付されないとき行なうものである(同法三六条)から、原稿料の支払先が、右納税告知処分後不詳でも、本訴において、原稿料であることが判明する限り、本件処分の効力に影響を与えるものではない。

(4) したがつて、原稿料の支払額合計は金二六二四万三八九三円、その源泉所得税は金二六二万四三七六円となる(別表一参照)。

(二) 給与に係る源泉所得税について

原告は昭和四二年三月から同年一〇月までの間に、別表三掲記の者に給与の支払をなしていたが、その源泉所得税を納付しておらず、右未納源泉所得税の総額は同表にみるとおり、金八万九一〇〇円である。右給与の各人別源泉徴収税額は、税務職員である松井重雄が、原告の源泉徴収録をもとに作成した明細書(乙第一〇二号証)によつており、正確といいうる。

4  源泉徴収義務者

本件係争年度における原稿料及び給与に係る源泉所得税の徴収義務者は、以下にみるとおりいずれも原告である。

(一) 原稿料に係る源泉所得税の徴収義務者について

原告は、以下にみるように図書の出版及び販売の事業活動を行なつており、本件原稿料の支払は、右事業活動の一環としてなされたものであるから、その源泉所得税の徴収義務者は原告である。

(1) 原告は以下にみるように事業活動を行なうに際し対外的に原告の会社名を用いている。

(イ) 一般に、書籍の出版者は、発行主体が法人の場合、発行場として右法人名、発行者として右代表者名を奥付に印刷するのがわが国における慣行であり、本件の場合、出版図書の末尾奥付に発行所として原告名が用いられており(乙第一号証の二、第二号証、第一八ないし第二一号証、第四二ないし第四六号証の各二、第一三四、一三五号証)これに反する原告提出書証(特に甲第一五号証)は虚偽文書の疑いが極めて濃厚である。

(ロ) 図書の販売、外注等の事業活動が原告名で行なわれている。

また、出版契約も原告名が用いられており(乙第一四八号証)、出版業務の主体も原告である。

(ハ) 図書発送用の送り状の送り主の表示欄に原告名が印刷されている。

(ニ) 納品書、受領書、請求書等の原始伝票類に原告名が印刷されている。

伝票の購入は必要な数量について行なわれるのが通常であり、数年先の使用予定分まで一括購入することは行なわれないのが常であるところ、株式会社大阪屋の伝票(乙第八号各証)についてみても、その日付は原告の発行日付であり、原告の主張によれば、原告は本件係争年度中休業したとされるうえ、本訴における証人鵜飼克三の供述によれば、右伝票は原告が大阪屋から一括購入して自社のゴム印を予め押印したものを使用したとされるが、右供述自体前記慣行及び伝票に押捺されている原告のゴム印が異なることからみて信用し難いが、仮に右供述を前提とするとしても、原告が事業を休止する昭和三八年以前に購入した残部の流用では、乙第八号証の一にみるように一取引毎に伝票用紙を作成し、毎月数回の取引があつたことからみて、それに必要な相当多数の伝票用紙をまかなうことは困難である。

(ホ) 主たる需要者の一つ同志社大学生に対する図書の広告が原告名で行なわれている。

(ヘ) 当裁判所昭和四〇年(ワ)第四八八号事件(以下「別訴」ともいう。)において原告代表者である田中健次が「三和書房」の名前で書籍販売している旨の証言をしている。

(2) 被告の原告に対する税務調査において、以下のとおり、原告が図書の出版販売の事業活動をなして、その一環として本件原稿料の支払がなされていることが判明した。

(イ) 本店に対する税務調査において、原告の従業員鵜飼克三に原告の現金出納帳及び銀行帳の記載内容を質問した結果、原告が本件原稿料の支払をなした旨確認した。

(ロ) 東京支店に対する税務調査において、原告の右支店責任者田中勤が印税に対する源泉所得税は同支店分も本店が支払う旨供述し、原告または原告の東京支店名義で作成された「印税計算書」には印税に対する源泉徴収額が計算、計上され、図書別の印税支払明細書も作成されていたことが確認された。

(3) 原告と訴外組合との以下にみるような関係からみても、本件原稿料支払に関する事業は原告の行為であり訴外組合の行為ではない。

(イ) 訴外組合は、昭和三八年九月四日に設立され、京都市上京区今出川通烏丸西入今出川町三二六番地に主たる事務所を置き、書籍の販売・出版及びこれらの附帯事業一切を行なう目的をもつものであり、その代表理事は田中健次であつた。

(ロ) ところで、原告が実際に本店業務を行なう場所(被告の主張1の(一)参照)と右の訴外組合の主たる事務所の設置場所は同一であり、その目的とする事業活動も同種(被告の主張1の(二)参照)であるうえ、その代表者も同一であるから、原告と訴外組合のいずれの事業かは外見上区別することは困難であつた。さらに、訴外組合についても原告同様審査請求に対する裁決までの段階において、総勘定元帳等の組織的な帳簿類の提出はほとんどなく、その事業内容の把握が十分なしえず、原告との事業活動の所属の区分の判断も困難であつた。

(ハ) 原告の書籍出版事業に対して、訴外組合の実際の事業活動は、主としていわゆる現場的作業である印刷と製本の二部門であり、両者は事業内容を分担しており、訴外組合は、原告が事業遂行上約束手形を発行せざるをえなくなるなどの事態に至つた場合に金融面の操作のために設立されたものである(田中健次の審査請求時の申述・乙第五七号証参照)から、訴外組合の設立は原告の事業活動を遂行するための手段にすぎず、その設立により原告の事業活動が中止されたことはない。

(二) 給与に係る源泉所得税の徴収義務者

本件係争年度における給与の支払主体が原告であることは、以下にみる理由によつても明らかである。すなわち、

原告代表者は別訴において、訴外組合は出版の現場的作業である製本・印刷等を分担していた旨供述し、証人伊皆裕の証言によれば、訴外組合の業務に従事していたものは伊皆裕(印刷)・岸真人(製版)・兼文堂こと広瀬(製本)であつたと窺われるから、本件給与の受給者(乙第一〇二号証参照)にはいずれも訴外組合の分担する業務に従事していたものはいない。

5  本件処分に至る経緯と原告の主張立証について

本件処分は、原告及び訴外組合のいずれからも、法人税確定申告書が提出されず、また、右徴収義務の履行もなされていなかつたため、原告らが、申告納税制度及び源泉所得税の自主納付制度を無視し、納税義務を没却しているものと判断して、被告の調査に基づいて原告に対して行なわれたものであり、訴外組合の方が、予め自主的に法人税確定申告書において、本件原稿料及び給与の支払事実を明確にし、右各支払にかかる源泉所得税の徴収義務を既に履行していたものにつき、あえて被告がその源泉徴収義務者を訴外組合ではないと判断して、原告の方に対し、本件処分をしたというものではない。

因みに法人税の確定申告につき、原告は、昭和三六年以降解散登記をした昭和四二年一二月までの間、いずれの年度も無申告であり、また訴外組合も、設立当初の事業年度分を除いて解散登記をした昭和四二年一一月までの間、無申告であり、原告は、原稿料及び給与の支払額について税法上源泉所得税の徴収義務が存することを熟知していたにもかわらず、右義務を全く履行していなかつた。

被告は、本件処分をするにあたり、実地調査を行ない、法人の意思が対外的に表示されたとみるべき伝票、領収証、契約書類及び図書の奥付等の客観的資料により、右処分の対象となるべき業務主体及び損益の帰属主体を把握した。

すなわち、原告が、本件処分当時に実在していたことは登記簿上明らかであり(乙第一四五号証)、また、乙号各証により、原告が、株式会社三和書房名義で対外的取引をし、図書の出版等現実に営業をしていたことも明らかであるうえ、原告代表者田中健次も、本人尋問において出版図書の奥付には著者の希望等により原告名義を使用し、出版していた事実を認めており、これらを総合してみると原告は、図書の出版・販売等の対外的取引については、その商号の知名度を考慮して営業を継続していたことが窺える。

これに対し、原告は、銀行取引における手形決済等はすべて訴外組合が行なつていた旨を主張し、原告代表者田中健次は、右尋問において「原告会社は不渡りを出し銀行取引を停止されていた。」と述べているが、銀行取引を停止されているものは事実上手形取引が不可能であるから、原告としては、手形決済を訴外組合の名義でしか行ないえない状況にあつたというだけのことであり、右事実をもつて原告が本件係争年度に営業活動をしていなかつた根拠とはなしえないばかりか、むしろ乙第四九号証及び第五七号証の記載事実を裏付けるものである。

また、原告代表者は、訴外組合の設立当時に被告の法人税課担当職員から、原告会社が右組合のために従来使用していた伝票等をそのまま継続使用して差支えないとの回答をえた旨再三述べているところ、右担当職員の氏名等の事実が何ら明らかでないことに加えて、中小企業等協同組合法六条において、企業組合は「企業組合」なる文字をその名称中に用いることが必要とされていることから、原告会社名を押印した伝票等を訴外組合がそのまま対外的に使用することまで可と回答するはずがなく、いわんや原告会社名義の領収証(乙第一三号証の一、二)の発行まで許可することは到底考えられないうえ、右領収証を受領した相手方が、原告主張のような発行者の実質的に異なることになる領収証を受領するはずもないから、原告の右供述は信用しがたい。

四  被告の主張 対する認否及び原告の反論

1  被告の主張1の(一)、(二)は認める。

2  同2の(一)は認めるが、同(二)は否認する。本件係争年度中における被告主張の原稿料及び給与に係る源泉所得税の徴収義務者は訴外組合であり、原告ではない。

3  同3の(一)のうち、昭和四〇年一二月に教原へ三万一六〇七円、青心へ五四〇〇円の各支払(別表二の八枚目参照)がなされていることは人名としての特定を欠くため否認するが、その余の原稿料が支払われていることは認める(但し、支払主体は原告ではなく訴外組合である。)。同3の(二)は否認する。

4  同4は(一)の(1)の(ヘ)、(3)の(イ)及び(3)の(ロ)のうち原告の本店と訴外組合の主たる事務所が同一で、その目的とする事業活動も同種で、代表者も同一であることは認めるが、その余の各事実はいずれも否認する。

5  同5は争う。

6  原告は、昭和三三年頃役員の紛争の影響から手形不渡等を出し、昭和三四、五年以後は実質的には営業活動をなしておらず、被告の主張する昭和三八年頃から昭和四二年末頃までは訴外組合が主体として活動しており、原告の解散結了登記が未了であつたため、外部的に誤解を生じたにすぎない。右係争年中は、訴外組合が、従業員を雇用して活動し、給与の支払、健康保険、厚生年金等の取扱い、保有自動車の支払管理、火災による損害弁済金の支払、図書出版販売、原稿料の支払等を自己の名で行なつていた。

7  本件係争年度当時の出版図書の末尾奥付に用いられた名称は「三和企業組合」もしくは「三和書房」で、右「三和書房」は田中健次個人の商号であり原告の名称ではない。仮に原告の名称の印刷された用紙を使用していたとしても、残用紙を使用したにすぎず、本店が支払うとの東京支店長である田中勤の供述の趣旨は訴外組合の主たる事務所所在地である京都で支払うということである

8  田中健次は原告の営業を中止し、訴外組合の営業を開始するに際し、被告税務署員の指導により、原告が休業届を出し、訴外組合が営業届を出すことにしており、被告は右事実を知悉していたものである。

9  原告の帳簿類は昭和四〇年五月の火災により焼失しており、右事実については被告の税務調査の際に陳述しているから、故意に提出しなかつたものではない。

10  被告の主張は、その調査能力不足又は調査不十分の弁解にすぎず、課税客体を特定する理由にはなりえない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一、二号証、第三号証の一ないし三、第四、五号証、第六号証の一、二、第七ないし第九号証、第一〇号証の一ないし二〇、第一一号証、第一二号証の一ないし八、第一三ないし第一八号証、第一九号証の一ないし一〇、第二〇号証、第二一号証の一ないし四、第二二、二三号証、第二四号証の一ないし三、第二五ないし第三一号証、第三二号証の一ないし四、第三三号証の一ないし三、第三四ないし第三七号証

2  証人鵜飼克三、同大石吉雄、同伊皆裕、同岸真人、原告代表者

3  乙第二六号証の一、二、第二七、二八号証の各一はいずれも官署作成部分の成立を認めるが、その余の部分の成立は不知、第五号証の一、二、第八号証の一、第八号証の二ないし四の各一、第九号証の二、第一〇号証の二、三、第一一号証、第一五号証、第二七号証の各二、第五〇号証、第五七ないし第六〇号証、第六一号証の一ないし三、第六二、六三号証、第六四号証の一ないし四、第一〇二ないし第一〇四号証、第一三一ないし第一三三号証の成立はいずれも不知、第六号証の一、二、第八号証の二、三の各二ないし四、第八号証の四の二、三、第二二ないし第二五号証、第二六号証の三の一ないし三、第二六号証の四の一、二、第二六号証の五、第六五ないし第九九号証、第一〇五ないし第一三〇号証の成立はいずれも否認する。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二、三号証、第四号証の一ないし三、第五、六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一、第八号証の二の一ないし四、第八号証の三の一ないし四、第八号証の四の一ないし三、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一、二、第一二号証、第一三号証の一、二、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二六号証の三の一ないし三、第二六号証の四の一、二、第二六号証の五、第二七、二八号証の各一ないし三、第二九ないし第四一号証、第四二ないし第四六号証の各一、二、第四七ないし第六〇号証、第六一号証の一ないし三、第六二、六三号証、第六四号証の一ないし四、第六五ないし第一四八号証

2  証人丸明義、同松井重雄、同玉置韶作

3  甲第三号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第一〇号証の一ないし二〇はいずれも官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知、第一九号証の一ないし一〇、第二〇号証、第二一号証の一、二、四、第二二、二三号証はいずれも京都西陣公共職業安定所長印、第三二号証の一、第三三号証の一、二、第三四号証はいずれも上京社会保険事務所長印及び日付については認めるが、その余の部分の成立は不知、第三三号証の三は日付については認めるが、その余の部分の成立は不知、第一、二号証、第八、九号証、第一七、一八号証、第二一号証の三、第三二号証の二ないし四、第三五ないし第三七号証の成立は不知、第一三ないし第一六号証の成立はいずれも否認する。その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

4  乙第六号証の一、二、第八号証の二、三の各二ないし四、第八号証の四の二、三、第二二ないし第二五号証、第二六号証の三の一ないし三、第二六号証の四の一、二、第二六号証の五についての原告の認否の変更には異議がある。

理由

(争いのない事実)

一  請求原因1(本件処分の存在)・同2(不服審査の経由)及び被告の主張1(原告の地位)については当事者間に争いがない。

なお、以下の理由中で事実認定の資料として挙示する書証のうち、成立に争いのあるものについては、別表四にみる証拠方法によつてその全部又は一部の成立を認めうるので、その成立についての判断は、争いのないものを含めてすべて省略する。

(原稿料と給与の支払について)

二 本件係争年度における原稿料の支払(支払者についてはしばらく措く。)については、別表二記載の各支払額のうち、昭和四〇年一二月の教原への三一、六〇七円、青心への五、四〇〇円の各金額を除いた金額の支払については当事者間に争いがない(被告の主張3の(一)及びそれに対する原告の認否参照)。そうして乙第六四号証の四、証人玉置韶作の証言によれば、被告の部下職員で法人源泉所得税部門を担当していた玉置韶作が原告に対する税務調査の際、東京支店の印税の支払について記した帳簿により、支払先と支払金額を確認のうえ、右帳簿の記載を転記して「印税支払内容調査メモ」(乙第六四号証の四)を作成したことが認められ、一般に原稿料の支払者は、その源泉所得税の徴収義務を負担し、その支払に関する調書(支払調書)を作成して税務署長に提出する必要がある(旧法四二条一項、六一条一項四号、法二〇四条一項一号、二二〇条、二二五条一項三号参照】ことからそのための資料を作成していると推認されるから、右「印税支払内容調査メモ」記載の各支払分のうち、前記争いのある「教原」「青心」との支払先に係る原稿料の支払についても、右支払先名が個人名として通常用いられているとは必ずしもいい難いにせよ、その記載自体はその作成者、作成経緯等諸般の事情からみて信用しうるから、これを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

なお、「印税計算書」(乙第六号証の一、二、第六五ないし第九九号証)と被告主張の原稿料の内訳(別表二参照)とを対照すると、右「印税計算書」に記載された原稿料については、被告は、源泉徴収後の金額を原稿料として主張しているともみうる(したがつて右認定額以上の原稿料の支払を認めうる。)余地は残るが、原稿料に係る源泉所得税の徴収税額は支払金額の多寡にかかわらずその一〇パーセントである(旧法四二条一項、法二〇五条一号)ことから、少なくとも被告主張の原稿料の支払とそれに対する源泉所得税額を認めることができる(別表一、二参照)。

また、本件係争年度における給与の支払(その支払者はしばらく措く。)についても、乙第一〇二号証、証人松井重雄の証言に弁論の全趣旨によれば「給与未納源泉所得税明細書」(乙第一〇二号証)は、被告の部下職員で法人源泉所得税部門を担当していた松井重雄が原告に対する税務調査の際に、源泉徴収簿から給与の支払を受けた者の氏名と未納源泉所得税額を確認のうえ、その記載を転記して作成したものと認められ、一般に給与の支払者は給与所得の支払を受ける者(以下「給与所得者」という。)毎に、給与所得の支給事績・所得税額の徴収事績・所得税額の計算の基礎となる事実を明らかにするために源泉徴収簿又は一人別徴収簿を作成し、右帳簿に基き給与所得の源泉徴収票・支払明細書を作成し、給与所得者にこれらを交付し、税務署長には前者を提出している(旧法三八条一項、六二条一項、六二条の二、法一八三条一項、二二六条一項、二三一条参照)と推認されるうえ、右「給与未納源泉所得税明細書」の記載は前記作成者・作成経緯等諸般の事情からみても信用しうるから、被告主張の給与に係る源泉所得税額八九、一〇〇円に対応する給与の支払と右税額の未納の事実を認めることができる(別表一、三参照)。

もつとも証人鵜飼克三は、原告が源泉徴収簿や補助簿を作成しておらず、被告の担当職員に呈示したのは現金出納簿のみである旨供述するが、右供述は、原告代表者が原告は昭和三六年以降の支払給与について源泉徴収していた旨供述していることと対比し、また、前記の一般の取扱い及び訴外組合名で提出されている「被保険者報酬月額算定基礎届」(甲第三二号証の一ないし四、第三三号の一ないし三)、「失業保険被保険者離職証明書」(甲第二三号証)に報酬月額、昇給額が被保険者別に明確に記載されていることなどに照らし、直ちに信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。(原稿料と給与に係る源泉所得税の徴収義務者について)

三 前記一の争いのない事実に甲第一七号証、乙第一ないし第五七号証(いずれも技番のあるものを含む。以下の書証についても同じ)、第一〇一、一〇二号証、第一〇五ないし第一四八号証、証人丸明義、同松井重雄、同玉置韶作、同鵜飼克三、同大石吉雄、同伊皆裕、同岸真人の各証言、原告代表者本人尋問の結果(いずれも後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。すなわち、

1  原告は、その商号を「株式会社三和書房」といい、図書・教科書の出版及びその附帯業務を目的として設立され(代表者は田中健次)、昭和二四年八月一二日に設立登記が経由された(乙第一四五号証)。

2  原告の主たる事業の内容は、大学の教科書の出版・販売にあり、主として大学教授等に執筆を依頼した原稿を受領し、それを外注先に委託して印刷・製本したうえ、各大学(特に同志社大学)の生活協同組合内の売店や各大学用図書販売店に卸す形式を採つていた。

3  原告は、当初、登記簿上の本店所在地である肩書地において営業していたが、その後、京都市上京区今出川通鳥丸西入今出川町三二六番地上所在の建物(木造瓦葺二階建店舗)をその所有者池垣貞之助から賃借して書籍販売のための営業所として利用していた。

また、東京都千代田区神田小川町三丁目三番地(後に、同区駿河台三丁目三番地に移転)に東京支店を設置し(支店長は田中勤)、本店から東京支店に対し、資金及び書籍を送付し、昭和三三年七月以前に右東京支店名義の振替口座を開設して(乙第一七号証参照)、右東京支店の書籍販売等の売上は本件係争年度中も含めて本店に送金されていた。そして、右東京支店においては、原稿料支払の基礎となる「印税計算台帳」(乙第一〇五ないし第一三〇号証)及び原稿料の支払先別の「印税計算書」(乙第六号証、第六五ないし第九九号証)が作成されていた。

4  原告は、昭和三五年頃社内で経営権をめぐる対立抗争があつたことも影響して、事業経営が悪化し、手形の不渡を出す等してその経済的信用が低下し、自己名義で銀行取引をするのが困難となつたため、右困難を回避する手段として、印刷・製本の外注先である事業者を含めその相互扶助による経済的地位の向上を図ることを目的とする訴外組合を設立することとなり、昭和三八年九月四日右設立登記を経由した(代表者は田中健次)。

5  訴外組合は、その定款(甲第一七号証)によれば、事業目的は書籍の販売・出版及びその附帯事業で(第二条)、組合員たる資格としては、右事業を行なうもの及びその従業員で、京都市内に住所または居所を有することが要求される(第七条)ところ、右組合員の人数は約一〇名程度であつた。

6  原告は、昭和三五年頃の事業経営の悪化に伴ない、当時の全従業員六〇名余りを解雇のうえ、新たに数名の従業員を採用して事業活動を継続し、訴外組合設立後は、前記3記載の建物のうち、階下の西側半分を含む一部を原告が、その余の部分を訴外組合が各利用してそれぞれの営業活動を営んでおり、訴外組合の業務内容は、現実には、出版における現場的作業としての製本・印刷であり、右業務に関与する組合員としては、岸真人(鉛版)、兼文堂こと広瀬某(製本)、藤田某(タイプ印刷)等がいた。右建物は、昭和四〇年五月二三日に隣接する岸真人方からの出火により類焼し、原告の帳簿も一部が焼失した。

7  書籍販売についてその納入先である各書店(株式会社大阪屋・同柳原書店・同オーム社書店・同栗田書店・東京出版販売株式会社・日本出版販売株式会社・有限会社栗林書房)への納品書・販売代金の請求書・領収書の名義は本件係争年度中を含みいずれも「株式会社三和書房」であり、本件係争年度中を含めそれ以前からの取引先である各書店の帳簿には取引先として「株式会社(又はK・K)三和書房」ないし「三和書房」と記載され、右各書店とも、取引先は原告であり、訴外組合との取引はない旨認識していた。

8  本件係争年度を含めて原材料の仕入先である丸大紙業株式会社京都営業所も、その納入先は原告として、訴外組合との取引はない旨認識していた。

また、本件係争年度中を含む製本の外注先である有限会社井上製本所も、その受注先を「三和書房」として、その旨の請求書を発行していた。

9  書籍の奥付に用いられる発行所名や出版契約の当事者名に「三和書房」又は「株式会社三和書房」の表示が使用され、右表示については訴外組合設立後も変化はみられなかつた。もつとも、原告提出の書籍の奥付(甲第一、二号証第一三ないし第一六号証、第一八号証)には訴外組合の表示があるが、その一部(甲第一、二号証)を除いて被告が提出した書籍の奥付(乙第一号証の二、第二号証、第一八ないし第二一号証)よりも遅れて提出されたものであるうえ、一般に頒布されていると推認される後者の奥付には発行所のみが記載され、本社と東京支店を区分してその振替番号も表示されているのに対し、前者の奥付の一部(甲第一、二号証)においては、発行所以外に発売元として訴外組合の表示があるうえ、発行所の本社と東京支店の区分表示がなく、他の一部(甲第一三ないし第一六号証)では発行所を訴外組合と表示してその所在地のみを記載して振替番号の記載さえ欠落し、いずれも検印がなされていないことを対比すれば、前者の奥付の成立には少なからず疑問があり、仮にその成立を認めうるとしても、その使用は極めて微々たる例外に過ぎないと認められるから、このことから直ちに叙上認定を動かすに足りない。

10  原告は、昭和三六年以降法人税の申告をなさず、訴外組合も設立当初の昭和三八年度は法人税の申告をしたもののそれ以後は申告をなさず、給与及び原稿料に係る源泉所得税については原告及び訴外組合のいずれからも納付がなされなかつたため、被告は、昭和四一年頃から原告の法人税等についての臨場調査を行ない、昭和四二年九月頃には原告の東京支店も臨場調査した。

11  右臨場調査の直後である昭和四二年一一月二一日付で訴外組合が同月一二日の総会決議により解散した旨の登記が経由され、その直後の同年一二月四日付で原告が同年一一月二六日の総会決議により解散した旨の登記が経由される一方、同年一二月一二日付で、従前原告の東京支店の所在地であつた東京都千代田区駿河台三丁目三番地を本店とし図書・教科書の出版及び販売並びにこれに附帯する一切の業務を事業目的として昭和三四年九月二三日に設立されていた原告とは別会社である「株式会社三和書房」がその本店を昭和四二年一二月一日に京都市中京区木屋町三条下ル石屋町一二三番地に移転した旨の登記が経由されている(その代表者は田中健次)。

12  そして昭和四二年一二月二〇日に本件処分がなされている。

以上のように認められ、右認定に反する前記証言及び本人尋問の結果は、にわかに措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告は本件係争年度中も書籍の出版・販売の事業活動を行ない、訴外組合は出版における現場的作業である製本・印刷を事業内容として活動を行なつていたものと認められ、売上のほとんどが書籍の販売代金によること等の諸般の事情に照らすと、原告が本件の原稿料及び給与に係る源泉徴収義務者であると認めるのが相当である。

この点に関し原告は、本件係争年度中休業しており、訴外組合が給与及び原稿料に係る源泉所得税の源泉徴収義務者であると主張し、訴外組合の設立認可直後に被告の法人課担当職員に営業届を提出する際、同職員に勧められて提出した原告の休業届を被告において所持しているとして民訴法三一二条一号・三号により、当裁判所に二度にわたつて文書提出命令を求め、被告は、これを争い、原告主張の文書は存在せず仮に存在したとしても書類の保存期間の経過により現存しない旨主張するから、この点につき検討するに、原告代表者の供述は右原告の主張にそうものである。しかしながら、原告代表者は右休業届の提出の経緯について、提出した用紙は税務署備付のものでなく、その控えすら受領していないと供述し、提出した用紙の様式自体についても、供述の具体性を欠くうえ、その際担当職員から従前、原告のために使用されていた奥付等の用紙をそのまま修正せずに訴外組合のものとして利用すればよいと助言された旨供述するが、訴外組合が、中小企業等協同組合法(昭和二四・六・一法律一八一号)に基づいて設立された「企業組合」であり、その名称中に当該文字を使用しなければならない(同法六条一項四号)のであつて、その出版、販売する書籍の奥付等にもその表示を必要とすることなどを考慮すると、原告代表者の右各供述は直ちに信用しがたいところである。そうすると、原告の文書提出命令の申立は、右にみるようにその前提となる文書の存在に疑問があるばかりか、仮にこれが存在したとしても、昭和四五年七月一七日に本訴提起後、当初の申立が昭和四八年二月六日付でなされており(ちなみに、訴外組合の設立は昭和三八年八月四日、本件処分は昭和四二年一二月二〇日である。)、書類の保存期間等の諸般の事情からみても現存しないものというべく不適法なものといわざるをえない。

また、原告提出の訴外組合名義ないし訴外組合の主体性を窺わせる文書(甲第一ないし第三七号証参照)のうち、「リ災証明書」(甲第七号証)については、その願出人名義が訴外組合であるのは原告と訴外組合の代表者・所在地が同一なため、右活動主体のうち一方のみを記載したとも解しうるし失業保険についての被保険者の資格の得喪についての文書(甲第三号証、第六号証、第一九ないし第二七号証、第三二ないし第三四号証)についても、経済的信用を失った原告名にかえて訴外組合名義を利用していたと解され、その余の文書も訴外組合名義の活動が認めれる以上、不自然ではなく、いずれも前記認定の妨げとはならないばかりでなく、本件係争年度において給与未納源泉所得税の納税義務者は別表三記載の一一名で、そのうちには、出版における現場的作業である製本・印刷等を担当していた岸真人・兼文堂こと広瀬・藤田某等が含まれていないうえ、右業務を担当した者がいないことからも、本件係争年度中の給与に係る源泉所得税の徴収義務者も原告であるというべきである。

(結論)

四 以上によれば原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田坂友男 裁判官 東畑良雄 裁判官岡原剛は転任につき署名押印できない。裁判長裁判官 田坂友男)

別表一

納税告知処分の内訳

(1)

〈省略〉

(2)

〈省略〉

(3)

〈省略〉

別表二

原稿料の支払明細

(1)

〈省略〉

別表二

(2)

〈省略〉

別表二

(3)

〈省略〉

別表二

(4)

〈省略〉

別表二

(5)

〈省略〉

別表二

(6)

〈省略〉

別表二

(7)

〈省略〉

別表二

(8)

〈省略〉

別表二

(9)

〈省略〉

別表二

(10)

〈省略〉

別表二

(11)

〈省略〉

別表二

(12)

〈省略〉

別表二

(13)

〈省略〉

別表二

(14)

〈省略〉

別表二

(15)

〈省略〉

別表三

昭和42年3月ないし10月の給与未納源泉所得税の内訳

〈省略〉

別表四

書証の成立について

〈省略〉

注) 一部の成立に争いがある書証を含む。

書証の認否の変更については最高裁52 4 15判決参照

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例